2021年08月12日、韓国はトルコと「通貨スワップ協定」を締結しました。規模は「2.3兆ウォン/175億トルコリラ(20億ドル相当)」です。
トルコリラは大暴落中。通貨安がずんずん進む
ところが、トルコリラは、現在エルドアン大統領の謎理論によって絶賛暴落中です。以下のドル・トルコリラのチャートをご覧ください(『Investing.com』より引用/日足)。
まさに「なんだこりゃ(笑)」なチャートですが、トルコリラ安が止まりません。通貨安を止めるために外貨準備の投入を開始していますが、トルコの外貨準備高は急速に減少しており、使い切るとドボン(債務返済のためのドルも使い切って債務不履行)です。
エルドアン大統領が元凶なので、いくら頑張ってもザルで水を汲むようなもので、全くの無駄です。エルドアン大統領が「インフレには利下げで対抗」などという世迷い言を撤回しない限り、トルコリラへの信任は戻りません。
――で、韓国メディア『韓国経済』が興味深い記事を出しています。トルコとの通貨スワップで『韓国銀行』が大損するかもしれない、というのです。
わずか20億ドルなので大丈夫なのでは……
『韓国経済』の記事から一部を以下に引用します。
トルコリラの価値が急落し、韓国銀行とトルコ中央銀行が結んだ20億ドル規模の通貨スワップに対する懸念も大きくなった。
トルコ経済のファンダメンタル(基礎体力)がますます悪くなっているだけに、20億ドルに達する通貨スワップ取引の実効性と損失の可能性を巡って疑問も広がっている。
(中略)
韓銀は当時、具体的な交換条件や内訳を公開していない。
通貨スワップ契約当時2兆3,000億ウォン分だった175億リラの価値は、現在は1兆5,000億ウォンに暴落した。
最悪の場合、韓銀が2兆3,000億ウォンを回収できないまま暴落を続けて価値が毀損されたリラをつかむのではないかという懸念も出ている。
税金で埋めなければならない損失だ。
韓銀がトルコとの通貨スワップの具体的な内訳と締結の背景を明らかにし、このような懸念を払拭しなければならないという評価も出ている。
記事内では、トルコリラが下がっているので『韓国銀行』に損が出るのではないか――という懸念について書いていますが、基本そんな心配は要らないはずなのです。
トルコがこの契約を利用したとして、同量となる互いの自国通貨の交換はあらかじめ定められたレートで行い、スワップバックする際もそのレートを用いて行うのが決まりだからです。
仮に最初のスワップが「175億トルコリラ = 2.3兆ウォン」のレートで行われたのであれば、スワップバックの際にもこのレートが適用されます。すなわち、トルコ側は返済時のレートにかかわらず、最初のスワップと同じ「2.3兆ウォン」(+ 利子)を返さなければなりません。
『韓国銀行』からすれば、175億トルコリラを『トルコ中央銀行』に戻せば、同時に最初のレートどおり「2.3兆ウォン」が返ってくるわけです。
ただし、トルコが通貨スワップを利用した後でウォンを返せなくなって、『韓国銀行』の口座には175億トルコリラだけ残ってしまう。しかもそれが最初のレートの半分の価値しかない――という事態はあり得ます。
この場合は、確かに困ったことですが、最悪でもわずか20億ドル規模です。さすがにこの程度の損で『韓国銀行』が揺らいだりはしないでしょう。だからこそ『韓国銀行』も『トルコ中央銀行』と通貨スワップを締結したものと思われます。
そもそも韓国企業のために結んだようなもの
また、この通貨スワップは、韓国企業への代金支払いを保証するために締結したようなものです。
韓国はトルコに輸出して貿易で大きなもうけを出しています※が、トルコの外貨が枯渇した場合、韓国企業が代金を取りはぐれる可能性があります。
トルコは韓国からの輸入が多く、韓国への輸出が少ないため、韓国との貿易で外貨が出ていくばかりになっています。そのため、トルコは「韓国とのFTAを破棄しようかなぁ」と言いだしたことがあります。
本当です。以下の記事をご覧ください。
通貨スワップ協定を結んでおけば、(『韓国銀行』⇒『トルコ中央銀行』⇒トルコの輸出入関連金融機関などの経路でウォンが回って)最悪でも韓国企業はウォンで代金を回収できるわけです(間接的に『韓国銀行』が立て替えたことになりますが)。
先にMoney1でもご紹介したことがありますが、中国と韓国の通貨スワップは企業のウォン建て・元建ての支払いのために発動されたことがあります。
トルコとの通貨スワップも同様の利用が想定されているでしょう。
そもそも契約の中身が不明なので、トルコがこの通貨スワップで得たウォンを通貨防衛に使えるかどうか分かりませんが、ウォンはローカルカレンシーなので、一度ウォンをドルに換えないと使えません。ですので、契約上使えたとしても、通貨防衛の役には立ちません。
かつて、麻生閣下が財務相のときに「中国と韓国との通貨スワップ」について、
「(前略)韓国の場合はウォンと元のスワップをしておられる、と思うんですが、元とウォンの間のスワップじゃ……間に一回入ってそれからドルに換わりますんで、コストが上がるということで、ずいぶん割を食っておられると思いますが(後略)」
韓国との「通貨スワップ」について麻生財務相の残すべき発言。「最後にもう一回言うぜ。大丈夫か?」かつて日本は韓国と「通貨スワップ取り決め」を締結していたことがありました。これは、2015年に韓国側が特に要らないといい、日本は渡りに船とばかりに「ああそうですか」として終わることになりました。しかし、以降も折に触れて韓国側は日本に再契約の...
と述べたことがあります。
これは、まさにいざというとき、例えば「通貨防衛のために使うなら」という想定の下におっしゃったわけで、本質を突いた指摘です。
トルコも同じで、ウォンのようなローカルカレンシーを受け取ってもドルに換えないといけないので、その分のコストがかかりますし、金額も20億ドル規模のような小さな額では焼け石に水。
加えて、当局が通貨防衛に出て、使える外貨の量(外貨準備高)がばれているわけですから、ヘッジファンドの標的になるに決まっています。ですから役に立ちません。
エルドアン大統領のことなので、もし使えたら「これ幸い」と利用しそうな気もいたしますが、さすがにそのような契約にはなっていないのではないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)