2023年02月07日、韓国のソウル中央地裁は、ベトナム戦争時、1968年02月01日に韓国軍(青龍部隊第1大大隊第1中隊所属の兵士)が「フォンニィ・フォンニャット村」で70人余りの住民を虐殺した事件について、韓国政府に賠償責任があるという判決を下しました(以下の先記事でご紹介済み)。
「韓国は過去の犯罪と責任を認める国だ」」という誇る意見がある一方で、韓国軍関係からは「虐殺事件など起こしていない」という反発の声が上がっております。
それを反映するように、2023年02月17日に行われた「国防委員会全体会議」において、イ・ジョンソプ国防部長官が判決に対して真っ向から反対の意見を述べました。
↑YouTube『KBSニュース』チャンネル「[現場映像]国防長官『ベトナム戦民間人虐殺全くなかった』…判決反論/KBS 2023.02.17.」
イ・ジョンソプ国防部長官は、「国防部が確認したところによると、韓国将兵による虐殺は全くなかった。判決にも同意しない」と発言。
また、『共に民主党』のユン・フドク議員の質問に、
「当時の状況は非常に複雑だ。韓国軍の服装だったとしても(韓国軍では)ないケースが非常に多かった」
イ・ジョンソプ国防部長官
「今回の判決でベトナム戦争派兵勇士の名誉が失墜し、罵倒されることを非常に遺憾に思う」「控訴するかどうかは関連機関同士の協議、および法務部の指揮を経て決定される予定」
と答えています。この「ベトナムのフォンニィ・フォンニャット村」で1968年02月12日に起こった事件は、アメリカ合衆国軍による調査も行われており、1970年01月10日には「韓国軍海兵隊(青龍部隊)が行った虐殺事件」としたRobert Morehead Cook(ロバート・モアヘッド・コック)大佐によるリポートが出ています※。
※リポートは機密文書に指定され内容が明らかになったのは、機密指定が解除された2000年06月01日のことでした。
また、コック大佐によるリポートの前には、韓国軍もリポートを出しています。しかし、それが明らかになったのも30年たってからでした。
2000年11月11日、元韓国ベトナム遠征軍司令官・蔡命新(チェ・ミョンシン)※1中将は、当時、合衆国陸軍参謀長ウィリアム・ ウエストモアランド将軍から何度も調査要求があったことを認めました。韓国軍が渋々出したリポート※2では「この虐殺は、韓国海兵隊の制服を着たベトコンが行った陰謀である」と回答していたのです。
今回の、イ・ジョンソプ国防部長官の発言は、当時韓国軍が出したリポートのママといえます。
※2このリポートについては情報開示が要求されていますが、全てが表に出たわけではありません。2021年03月25日、韓国の大法院は、国家情報院が持っている「フォンニィ・フォンニャット村事件」についての情報を公開せよ、という判決を下したのですが、実際に公開されたのは、当時調査を受けた3人の軍人の名前だけでした。それ以上の情報は現在も公開されていません。
イ・ジョンソプ国防部長官は「抗告」を示唆していますが、実際に抗告するかどうかは法務部の判断になるものと思われます。また、問題は、今回の判決が法理にかなっているものかどうかです。
今回ソウル中央地裁は、「韓国政府には賠償責任がある」と、原告・ベトナム人のグエン・ティ・タンさんの勝訴としましたが、これは法理に即しているのかどうかをもっと考える必要があるでしょう。
そもそもベトナム人が韓国で起こした裁判です。外国人が韓国で起こした裁判で、外国人に対して自国政府の責任を認める――という判決を出したのですが、韓国の法、国際法のルールにかなっているのかが一つ。
さらには「時効」の問題があります。裁判所は「原告にこの訴訟を提起できる時になるまで権利を行使できない事由があった」としましたが、これでいいのでしょうか。事件が起こったのは「1968年」。民法上の時効になっているはずです。
「情に即した判決」かもしれません。しかしながら法理に即していないのであれば、これは「法治」とはいえないでしょう。
念のために付記しますが、筆者は「グエン・ティ・タンさんが敗訴すべき」などと言っているのではありません。韓国の法、国際法に基づいた判決なのか、また例によって「情治」になっていないかを聞きたいのです。
(吉田ハンチング@dcp)