日本ではあまり聞きませんが、韓国では「ELS」という金融派生商品がポピュラーです。「国民的財テク商品」といわれ2019年にはELSには約100兆ウォンもの資金が投入されていました。
「ELS」とは?
ELSとは「Equity-Linked Security」の略で、日本語版の韓国メディア記事などでは「株価連携証券」と訳されています。債券の一種(債券的な特性を持つ)で、株価・株価指数・債券などと連動して組成される金融派生商品です。
説明しだすと非常に長くなるのですが、できるだけ簡単にやっつけてみましょう。
例えば、最もポピュラーな「ステップダウン型」と呼ばれるELSは次のような仕組みになっています。
韓国の「KOSPI(韓国総合株価指数)」に連動したELSがあったとします。仮に仕様は以下だとしましょう。
原資産:KOSPI
満期:3年
評価サイクル:6カ月毎
年利:6%
/95/90/85/85/75/65/(後述)
これに「500万円」投資したとします。
上掲はこのELSのイメージです。左上の黒い実線がKOSPIの折れ線チャートだと考えてください。
/95/90/85/85/75/65/
この数字は半年(6カ月)毎に来る評価ポイントで「償還できるかどうかを評価する」ためのもの。
このELSの基準日を「100%」として、
12カ月後:90%
18カ月後:85%
24カ月後:85%
30カ月後:75%
36カ月後:65%
を評価基準とするよ、ということを意味しています。それぞれの評価ポイントでこれを上回っていれば満期の3年を待たず早期償還となります。評価基準が段々に下りていくので「ステップダウン型」と呼ばれています。
以下を見ていたいた方が分かりやすいでしょう。
6カ月後に最初の評価ポイントがやってきます。このときに基準日を「100%」として、KOSPIが「95%」より上にあれば、早期償還です。
500万円×3%(年利6%で半年ですから半分)の利息と共に元本「500万円」が戻ってきます。
この第1回目の評価ポイントで95%より下になった場合は早期償還されません。次の6カ月後すなわち12カ月後に、今度は「90%」より上か下かがチェックされます。ここで90%より上であれば早期償還で「500万円×年利6%」の利息と共に元本「500万円」が戻ってきます。
1-3回の評価ポイントで償還できず、4回目で償還できたとすると上掲のようになります。
1-5回の評価ポイントで償還されない場合には、3年後(6回目、最後の評価ポイント)で「65%」より上か下かが問われ、償還されれば「年利6%×3年=18%」の利息と元本が戻ってきます。
65%より下で償還されなければ、元本割れでその金額が戻されます。仮に0%であれば丸々100%の損失になります。
ざっくりいえばELSとはこのような仕組みのもので、上掲はあくまでも例で、原資産が一つというのは稀です。三つ、四つと組み合わせて組成されるものの方がポピュラーです。
また非常に種類も多く、このようなステップダウン式でないものもあります。
韓国で人気があるのは「株式投資よりもリスクが低く、銀行の積立よりも期待収益率が高い」と考えられているからです。
またすぐに「早期償還」となれば、その資金を再度別のELSに投じることも可能です。つまり、結果が早く出るわけで、これが韓国の皆さんの心情に合っているという点も人気の理由ではないでしょうか。
証券会社が追い証を求められる理由
すぐに気付かれると思うのですが、一種のハイ&ローゲームみたいなもので、投資家は証券会社が作った相場表にお金を張っているような状態です。投資家から集めた資金は証券会社がハイレバレッジで「何か」に突っ込みます。
で、それが下落したらどうなるか? 証券会社の信用取引口座に資金が足りません――なんて事態になり、証券会社がマージンコール(追い証)を求められるという椿事が発生するわけです。
通常、証券会社は、投資家が株式・債券・通貨などに資金を突っ込んで損をしようが得をしようがもうかるようになっています。手数料収入でもうけるからです。
ところが、ELSの場合には実際の「何か」に資金を突っ込むのは証券会社自身です。そのため、海外の資産にお金を突っ込んで外貨建てのマージンコールが求められたりするのです。
これが、2020年初頭に韓国の証券会社がマージンコールで二進も三進もいかなくなり、ドルが枯渇した理由です。
(柏ケミカル@dcp)