韓国メディア『中央日報(日本語版)』に「『越えられない壁』日本を越えた…「自動車韓日戦」で大韓民国完勝」という記事が出ています(元は『韓国経済』の記事)。
記事の主旨としては、『現代自動車『起亜自動車』という『現代自動車』グループが、インド、ベトナム、ロシアの自動車市場で「越えられない壁」といわれた日本自動車メーカーを次々に追い抜いている、素晴らしいというものです。
例えば、インド市場については以下のように書いています。
(前略)
17日、インド自動車製造協会によると、現代車・起亜の先月のインド市場占有率は35%で1位を記録した。前月23%から12%ポイント急騰し、現代車が1998年に現地工場を設立して以来、初めて月間1位を占めた。40年間余りトップを守っていたマルチ・スズキ(インド・マルチと日本スズキの合弁会社)の占有率は同じ期間47%から32%に落ちた。
(後略)
まるで韓国自動車メーカーが日本自動車メーカーを駆逐した、みたいな書き方になっていますが本当でしょうか?
実は、2021年05月(記事の日付けは06月18日で「前月」と書いているので05月を比べます)のインドの自動車市場での販売台数は以下のようだったのです。
メーカー | 2021年05月 | 2020年05月 | 前年同月比 |
マルチ・スズキ | 3万3,771台 | 1万3,865台 | 143.6% |
タタ | 2万4,552台 | 4,418台 | 455.7% |
マヒンドラ | 1万5,052台 | 8,988台 | 67.5% |
現代 | 2万5,001台 | 6,883台 | 263.2% |
トヨタ | 707台 | 1,639台 | -56.9% |
ホンダ | 2,032台 | 375台 | 441.9% |
起亜 | 1万1,050台 | 1,661台 | 565.3% |
※データ出典は『MARKLINES』
『マルチ・スズキ』は05月も第1位です。『中央日報(日本語版)』 の記事は『現代自動車』の2万5,001台と『起亜自動車』の1万1,050台を足した話です。
次にインド市場です。以下に『中央日報(日本語版)』の記事から一部を引用します。
2000年代トヨタの独壇場のようにみなされていたベトナム市場では現代車・起亜が2019年から占有率1位を占めている。今年1~4月も販売台数3万7,354台でトヨタ(1万8,973台)を大きく引き離し、差を広げている。
では、これは本当のことでしょうか? 同様に『MARKLINES』のデータを見ると以下のようになります。
メーカー/ブランド | 2021年05月 | 2021年01-05月累計 |
トヨタ | 5,139台 | 2万4,112台 |
Thaco 起亜 | 3,336台 | 1万8,266台 |
三菱 | 2,709台 | 1万3,090台 |
Thaco マツダ | 2,426台 | 1万1,435台 |
Thaco Truck | 2,120台 | 1万415台 |
フォード | 1,666台 | 1万144台 |
ホンダ | 1,423台 | 1万134台 |
スズキ | 1,017台 | 5,341台 |
いすゞ | 631台 | 3,697台 |
※データ出典は『MARKLINES』
ご覧のとおり『MARKLINES』のデータでは『トヨタ』が05月は第1位です。インド市場と同様に『現代自動車』と『起亜自動車』を足して計算しているのです。
また、01-05月の累計を見てください。『トヨタ』は「2万4,112台」で、『Thaco 起亜』は「1万8,266台」で差は歴然としています。『中央日報(日本語版)』の記事は、『現代自動車』系と『起亜自動車』を足して、なぜか「01-04月の累計」で記事を書いています。
残念ながらロシア市場での販売数についての元データが見つけられませんでしたが、この記事では、『現代自動車』と『起亜自動車』系の自動車販売台数を足して、『トヨタ』『スズキ』など日本企業のブランド個別と比較して、「大韓民国完勝」などと言っているに過ぎません。
タイトルに「大韓民国完勝」などと付けるのであれば、日の丸自動車企業の販売台数を全て足さないと比較にならないでしょう。やり口がどうもよろしくないと思われるのですが。
(吉田ハンチング@dcp)