2022年11月03日、日韓議員連盟、韓日議員連盟の顔を合わせての合同総会が韓国・ソウルで行われました。
合同総会が対面で開かれるのは3年ぶりのことで、日本からは『日韓議員連盟』に所属する国会議員20人が、韓国の『韓日議員連盟』からは40人の国会議員が参加しました。
韓国メディア『朝鮮日報(日本語版)』では以下のように報じられています。記事から一部を引用します。
(前略)
両連盟は同日午後には国会議員会館で合同会議を開いた後、両国関係改善と安保協力強化などを盛り込んだ共同声明を発表した。両連盟は共同声明で、「最近の徴用労働者訴訟などの歴史問題や、対韓輸出管理強化(輸出規制)などをめぐり、両国間に確執があったことに対して懸念を表明し、これを打開するため、1998年の金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相による『韓日共同宣言21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ』の精神に立ち返り、両国関係を速やかに正常化しなければならないという点で意見がまとまった」と述べた。
(後略)
1998年の金大中(キム・デジュン)-小渕恵三「日韓共同宣言」の精神に立ち返ることで意見がまとまった――と報じているのですが、本当にそんなことを日本議員が合意したのかと疑うような報道です。
これが本当でした。
額賀会長のスピーチはダメでした
↑『JTBCニュース』が伝える「第43回韓日議員連盟合同総会開会式」YouTube「JTBCニュース」チャンネル
合同総会の開催に当たり、額賀福志郎『日韓議員連盟』会長がスピーチを行いました。
上掲のYouTube動画を見ていただければ分かりますが、額賀会長はまず最近起こったハロウィン事故について哀悼の意を表し、意志疎通が大事だと強調。
その後、額賀会長は本当にそのように述べています。
以下に注目部分を「文字起こし」してみます。
(前略)
わたしたち日韓議員連盟の議員といたしましても、日韓両国首脳間で合意している基本的な考え方に沿って、日韓関係の改善が実現できる解決策について、与野党を超えて支援していくことによって、わたしたちの政治の責任を果たしていくことが責務ではないでしょうか。皆さんと共に確認をしていきたいと思います。
わたしたちは引き続き、岸田総理、尹大統領のリーダーシップの下で、外交当局間の協議が順調に進展することができる環境づくりをしていかなければならないと思っております。
わたしたちは尹大統領の発言を信頼し、前向きの行動を期待するのと同時に、岸田総理にも誠意を持って日韓関係改善に取り組むように進言することをお約束したいと思います。
そして戦後、日韓関係が最も良好であったといわれる1998年の小渕-金大中(キム・デジュン)パートナーシップ宣言の精神に1日も早く立ち戻り、岸田-尹時代に21世紀にふさわしい、日韓新時代の地平を切り開くことができるよう、国会議員として汗をかいていこうではありませんか。
(後略)
※上掲ビデオの29:59から31:32辺りまで
額賀会長は、韓国の議員を前にして、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領を信頼して、岸田首相に「誠意を持って日韓関係改善に取り組むよう」進言すると約束しました。
この「誠意をもって」が大問題です。この物言いが「いわゆる徴用工」問題のことを念頭においての発言なら深刻な失言に他なりません。
「いわゆる徴用工」問題において、韓国政府の使う「誠意をもって」というフレーズは、日本人が思う「誠意をもって」ではないのです。l
何度もご紹介しているとおり、韓国外交部また韓国メディアが「日本に誠意ある対応を求めている」などというときには、この誠意は「(日本政府や日本企業による)謝罪」であり「賠償」を意味しています。
額賀会長の発言は「岸田総理に謝罪・賠償をするよう進言する」という意味と取られます。しかも、この発言を韓国の議員の前でしたのです。
さらに「小渕-金宣言に1日も早く立ち返り」という発言までしています。韓国に来たのでリプサービスを――と思ったのかもしれませんが、これは失敗です。
「小渕-金宣言」がそもそもの間違い
日韓関係の改善について、韓国政府・韓国メディアは「金-小渕宣言に立ち返るべき」とやたらに言います。韓国の外交部、朴振(パク・ジン)外交部長官は先頭に立って「金-小渕宣言」を推します。
理由は簡単で、この当時は日本が韓国の甘えを許していたからです。また、1997年のアジア通貨危機(韓国では一般にIMF危機)があって韓国は日本にすり寄っていました。
先にご紹介したとおり、木村幹先生は以下のように述べていらっしゃいます。
「日韓パートナーシップ」という一時の夢
この時期を少し遡る一九九八年の小渕恵三と金大中による「日韓パートナーシップ宣言」は、このような当時の雰囲気の産物であり、具体的な友好関係実現に向けた人々の動きもあった。
しかしながら、当時の私はそこに現れたあまりにも楽観的な「未来志向的」な言葉を、歯が浮くような、白々しいものだと感じていた。
日韓の間に横たわる歴史認識問題や領土問題が一朝一夕に解決するとは思えなかったからだ。
だが、少し裏を読んでこの宣言を、日韓両国政府が、潜在的な問題の深刻さを承知のうえで、これにあえて「臭いものに蓋をする」式に、意図的に見て見ぬ振りをして、やりすごそうとしているなら、それはそれでうまいやり方かもしれない、と考えていた。
(中略)
だとすると、いったいこのような小春日和のような状態を、日韓両国はいつまで続けることができるだろうか、そんなことを考えていた。
(後略)⇒引用元:『韓国愛憎』著:木村幹,中公新書,2022年01月25日発行,pp116-117
「小渕-金宣言」は、日本が韓国を甘やかす土壌があり、韓国からしても経済的援助が必要で日本に対してあまり強く出られないという当時特有の環境が生み出したものなのです。
木村先生の表現を借りれば「小春日和の夢」だったのです。
日本に必要なのは「臭いものにフタの宣言」ではありません
また、木村先生の「『臭いものに蓋をする』式に、意図的に見て見ぬ振りをして、やりすごそうとしている」という指摘は、まさにこの宣言の本質を突いています。
現在、日韓関係に必要なのは、「臭いものに蓋をする宣言」などではありません。今まで「なあなあ」にしてきたことをあらためて清算する態度であり、法理に基づく断固たる姿勢です。
そうでなければ、日本政府は日本国民から理解を得られないでしょう。
日韓関係は現在が最悪などという人がいますが、筆者などはそうは思いません。
韓国に対する正直な意見を表明し、法理に基づいて、日本の国益に沿って、断固たる姿勢を示す時が来たのです。また、それができる環境になっています。ですから今が最良の時期ともいえます。いや、最良の時期に向かっているのです。
額賀会長はスピーチの最後辺りで以下のように述べています。
(前略)
自由闊達に意見交換をし、後世の歴史家の批判に耐えられる立派な道筋をつくっていくことができればありがたいと思っております。
(後略)
日韓の議員の皆さんには、本当にそのような議論をしていただきたいと心より祈念せずにはいられません。
(吉田ハンチング@dcp)