Money1でも長いこと付き合ってきた話が飛ぶかもしれません。
2019年の終わりに事実上破綻した韓国『アシアナ航空』を救済する方法が、国策銀行『産業銀行』が描いた絵図である『大韓航空』との合併プランにいきつきました。
無償減資に有償増資などの手管を駆使してやっとその基盤を固めたのですが、最後の難関が各国のM&A承認です。
その企業合併によって独占企業が誕生し、市場原理による自由競争を阻害するのであれば、「結合審査」をクリアすることがでいません。
よりによって残っているのがEU、アメリカ合衆国、そして日本なのです。結合審査は、必要な国のうち一国でも反対したら「不可」となります。
日本までお鉢が回ってくると、またぞろ「日本ガー」が始まる可能性があります。日本としてはうんざりする話だったのですが、予定どおりEUと合衆国が難色を示しており(しかもかなり強力な)、日本がうんぬんの前に、せっかく書いて進めてきた絵図が雲散霧消の危機になっています。
やっぱりEUと合衆国は厳しい!
以前にもご紹介したことがありますが、航空業界のM&Aについては、EUと合衆国は大変に厳しい結合審査を行うのです。
「航空会社間での企業結合をEUと合衆国の公取委が認めた例はほぼない」のです。
例えば、EUの公正取引委員会は、カナダ第1位の『エア・カナダ』と第3位の『エア・トランセット』の合併を認めませんでした。
また、スペイン第1位『IAG』と第3位『エア・ユーロパ』の合併は、合併後に独占を解消するための新規航空会社を立てることまで提案しましたが、当局は不十分として却下。結局、合併を取り下げることになりました。
合衆国の司法省は先に「航空事業者の数が一つ減ると7%の値上げが起こる」という見解を出しており、このような認識を基に公正取引委員会が結合審査に臨むことは明らかです。
――と分かっていて、今回の『大韓航空』と『アシアナ航空』の合併絵図なのです。
予定どおり、EUと合衆国当局は非常な難色を示しています。
まずEUですが、独占路線に対して即時スロット(特定の空港に離着陸できるように割り当てられた時間帯)と運輸権の返還するよう要求しています。
次に合衆国の司法省は、『大韓航空』に対して「『アシアナ航空』クラスの競争相手がなければ合併承認が難しい」と通知したことが明らかになっています。
これに対して、『大韓航空』は「LCC(格安航空会社)の『エアプレミア』を育てて独占問題を解決します」と提案したのですが、合衆国司法省は拒否。
当たり前です。
『アシアナ航空』クラスの対抗馬がないと独占になるから駄目といっているのに、小さな『エアプレミアム』を「『大韓航空』と『アシアナ航空』が合併した企業」に当てようというのですから、一蹴されて当然です。
『大韓航空』が08月までに代案を出せなければ、合衆国司法省は「合併を不許可とする訴訟」も検討する――としています。
そもそも『大韓航空』と『アシアナ航空』が運行する合衆国路線のうち、独占の恐れがあるのは5路線(サンフランシスコ、ホノルル、ニューヨーク、LA、シアトル)です。
このうち、サンフランシスコ線は『ユナイテッド航空』、ホノルル線は『ハワイアン航空』が唯一の競争相手ですが、そのシェアはそれぞれ20%程度。
残りは全部『大韓航空』(アライアンスを組んでいる『デルタ航空』含む)と『アシアナ航空』が占めているのです。で、『大韓航空』と『アシアナ航空』が合併するというのですから、独占禁止法に触れないわけがありません。
他の国がよく結合OKを出したという話なのですが、そもそも韓国の公正取引委員会が(自国の2社を救うために)いい加減な態度を露呈して、結合審査に許可を出しています。
「国際線26路線、国内線14路線で独占が発生すると評価して、スロット・運輸権の返還を命じた」んのですが、是正期間を10年与えました。
要するに、結合にGoを出して合併企業を作って、既成事実化してから「後で考えよう」です。
しかし、EUと合衆国がそんないい加減な判断をするわけがありません。
「メイデー、メイデー」
――というわけで、国策銀行『産業銀行』が描いた絵図、『大韓航空』と『アシアナ航空』の合併は、予定どおり、EUと合衆国の公取委の壁に阻まれようとしています。
「メイデー、メイデー」です。
先に、瀕死の『大宇造船海洋』のM&AがEUの公取委によって轟沈されましたが、本件もそのようになる公算が高まっています。『大宇造船海洋』は結局『ハンファグループ』によって買収されました。『アシアナ航空』も新規に売却先を探すことになりそうです。
(吉田ハンチング@dcp)