鉄鋼・アルミニウムの輸入増に制限をかけるため、トランプ大統領が追加関税を課す動きをしています。大統領はアメリカの鉄鋼メーカーと会談を持ち「キミたちにいいことがあるよん」などと語ったそうですが、これが世界中で反発を招いています。
今回のアメリカの措置は、アメリカ独自の法律「通商拡大法」(Trade Expansion Act)の第232条(Section 232)を根拠としています。日本人は普通知らない法律ですので、まず通商拡大法についてご紹介します。
■「通商拡大法」はアメリカの危機感から生まれた
通商拡大法は1962年に成立しました。提唱したのはケネディ大統領です。当時、ヨーロッパではEEC(欧州経済共同体:1957年に設立)ができ、ヨーロッパを大きな単一市場にしようとする試みの勃興期でした。
ヨーロッパが大きな力を持つようになると、相対的にアメリカの力が弱まります。世界の貿易・通商分野で変わらずアメリカがイニシアティブを取れるようにと、この法律の制定が推進されたのです。
この法律は、大統領に以下の3つの権限を与えました。
1.関税率を今後5年間に50%引き下げる権限
(1962年07月01日現在の関税)
2.ある特定の商品についての関税を全廃する権限
3.輸入増大による国内産業への影響を緩和する権限
ただし「1」については、GATT(ガット:WTO(世界貿易機関の前身))での交渉(いわゆるケネディ・ラウンド)の結果、1967年に失効しました。
ですので、輸入が増えて国内産業が圧迫されている、といった状況があると、この法律を根拠に大統領は手を打てるのです。
■第232条は「安全保障」を理由にするもの
通商拡大法の第232条は「安全保障を理由に輸入制限を可能にする」条項です。
2018年02月にアメリカ商務省は、「鉄鋼・アルミの輸入増によって、アメリカの(同種の)国内産業が影響を受け、防衛装備の調達に支障を来しかねない」という調査報告書を公表しました。
防衛装備に使われる鉄鋼・アルミなどを輸入に頼っていてはマズイ、という判断で、これはまあ分からないこともありません。
しかし、通商拡大法はあくまでもアメリカの独自の法律、ドメスティックなものです。貿易・通商は国をまたぐ取引で、インターナショナルなもの。国対国の取引の公正さを担保するためにWTOという組織があるわけです。
実際、WTOは一方的な輸入制限を禁じています。確かに安全保障上の理由であれば「例外とする」ことはできますが、これを乱用されては困るのです。そのため、各国はこの「例外」を使うことを遠慮してきた歴史があります。
アメリカの歴代政権も、ジャイアンみたいな国ではありますが、一応の気遣いを見せてきました。トランプ大統領が来週、輸入制限を発動すれば、これは1982年以来のこととなります(リビアからの原油輸入を制限した)。
■EUはすでに猛反発で報復措置を検討! 中国も続くと予測される
通商拡大法はアメリカの法律であるため、諸外国からすれば「そんなものお前のところの我がままを通すための法律じゃん」といったところ。
対アメリカ事案なので日本は表面上まだ動きはありませんが、EUは徹底抗戦の構えで報復関税を課すことを表明し、中国も対抗措置を取る構えを見せています。
「貿易戦争はいいことだ。楽勝だよ」
trade wars are good, and easy to win
⇒データ引用元:『@realDonaldTrump』「2:50 – 2018年3月2日」
https://twitter.com/realDonaldTrump/status/969525362580484098
とトランプ大統領はTweetしていますが、さてどうなるでしょうか!?
(柏ケミカル@dcp)