韓国のプレスリリースを見ていると、なぜ大統領がこれほど奉られるのか、と思う表現が登場します。
なぜ「大統領」に「様」を付ける?
例えば、先にご紹介した鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相の発言を『ChosunBiz』では次のように書いています。
정 장관은 “교황님은 가고 싶은 의지는 확실하신 것 같다. 몇 번 (문재인) 대통령님께 그런 의지를 말씀하셨다”면서 “북한의 결심만 있으면 충분히 실현 가능성이 있다”고 답했다.
鄭長官は「教皇様の行きたいという意志は確かなようだ。何度も(文在寅)大統領様にそのような意志を伝えた」とし「北朝鮮の決心さえあれば十分実現可能性がある」と答えた。
この「大統領様」が気にならないでしょうか。日本語の「大統領」はハングルの表記では「대통령」。これに「敬称」の「님(ニム)」(~さん、~様)を付けて「대통령님」、つまり「大統領様」にしています。
このような呼称は、日本語ではおかしな表現になります。社長や部長、ましてや首相などの言葉は、その中にすでに「選ばれた人である」という尊崇の気持ちが含まれた尊称であり、そのため「社長様」「首相様」などのようには普通は使いません。
調べてみると、韓国でも「これは過剰な表現だ」と指摘されています。例えば、イ・ジェヨン慶南大学教授・政治学博士の以下の記事です(自動翻訳でも十分意味は取れるのでもしご興味があればぜひご一読ください)。
大統領を過剰に持ち上げる「大統領様」という表現は、青瓦台・大統領府のブリーフィングのプレスリリースでもよくお目にかかります。
このような二重敬意の表現がまかり通っており、それが政府の公的文書で使われるのは日本人からすれば明らかに異常です。
例えば、内閣府が出すリリースに「岸田首相様は……」などと書かれていたらどのように思うでしょうか。こんな表現がまかり通るのは北朝鮮の「首領様」ぐらいではないでしょうか。北朝鮮の場合には、前にさらに「偉大なる」が付いたりするわけですが。
韓国の大統領は「朝鮮王朝の王」なのだ
北朝鮮はともかく、南朝鮮でも「このような表現をしなければならない」という心理があるものと推測できます。それで思い当たったのが、牧野愛博先生の著書『ルポ 絶望の韓国』の中の一節です。
同書から一部を以下に引用します。
(前略)
韓国側は「もし会談が決裂した後になったら、大統領に昼食のお願いなどできない」と考えた。この点は、多くの日本人が理解に苦しむところかもしれない。しかし、「韓国人は、大統領を旧朝鮮王朝の王のような存在と考えている」(韓国政府元高官)という。
元高官はその理由について「韓国は朝鮮王朝の後で日本統治を受け、さらに米国主導で大統領制を導入した歴史的な背景がある」と語る。
(後略)⇒参照・引用元:『ルポ 絶望の韓国』著:牧野愛博,文春新書,2017年05月20日第1刷発行,p.75
※赤アンダーライン、強調文字は筆者による
牧野先生がこの箇所で述べているのは、日本と韓国との会談において、昼食会をなしにしようとした韓国側の姿勢についてです。
日本側は、会談でもめるかもしれないが、だからこそ昼食会を設けて一緒に食事を取るべきだ、と考えたのですが、韓国側は「もし会談でもめたら、(それこそ「大統領様」に)とてもではないが昼食会を行いましょうなどと言えない」と考えた――というのです。
韓国がこのようにまるで大統領を腫れ物にさわるように扱うのは、大統領が朝鮮王朝の王のように考えられているからだと韓国政府元高官が語った――とのこと。
同書のこの部分は2015年の日韓首脳会談の内幕について触れた箇所ですが、このような大統領についての韓国の皆さんの振る舞い方は、恐らく現在でも同じなのです。
日本人からすると、退任した後ヒドイ目に遭うのが分かっているのになぜ大統領になりたいのか、とても不思議ですが、これに対する答えは「王になれるから」ではないでしょうか。
(吉田ハンチング@dcp)