日本と韓国が新たな「通貨スワップ」を締結するのでは? とネットでも話題になっています。韓国経済は現在非常な苦境にあるとされ、そのため日本との通過スワップが必要といわれます。この通貨スワップとは何なのでしょうか?
「通貨スワップ協定」とは通貨を融通し合う仕組みのこと!
ここでいう「通貨スワップ」は正確には「通貨スワップ協定」。簡単にいうと「通貨危機に陥った際に、外貨(お互いにとっての外貨:普通は自国通貨)を融通し合うこと」で、その取り決めを「通貨スワップ協定」といいます。
融通する際の交換レートはあらかじめ決めておき、「いざ実行!」という際にはこのレートに従って通貨を融通することになります。
通貨スワップ協定は「外貨準備」に関係しています
通貨スワップ協定には「外貨準備」が関係しています。面倒くさい説明になりますが、少し我慢してお付き合いください。
鎖国をしている国ならともかく、諸外国と取引をしている国はどうしても外貨を持っていなければなりません。外国への債務返済や通貨安を食い止めるための為替介入を行うためには外貨を大量に保有している必要があります。一般にその国の外貨準備はこのような用途に使われるものです。
準備しておきたい外貨の中でとりわけ重要なのは「米ドル」です。国際間の取引の決済に使われるのは主に「米ドル」ですから、これがなくなってしまうと取引ができなくなってしまいます。
世界各国の国際収支を表すシートには、「外貨準備高」という項目があって、自分の国にどのくらいの外貨があるのかはそこに示されています。
例えば、財務省が発表した最新データを見ると、2019年(令和元年)08月の段階で、日本の「外貨準備高」は1兆2,628億700万ドル。現在のドル円レート(1ドル=107.56円)で換算すると、ざっくり135.8兆ドルの外貨資産があるわけです。
⇒参照:『財務省』「外貨準備等の状況(令和元年8月末現在)」
https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/0108.html
ただし、これが全部現金というわけではありません。「証券」だったり「金」だったりします。日本の場合、特にアメリカ国債を多く持っているといわれます。
さらに、日本には「外国為替資金特別会計」という、政府の財布(一般会計)とは別にプールしているお金もあります。いわゆる「外為特会(がいためとっかい)」です。これは外国為替や金などの売買に備えて準備されているお金です。
なぜ別の財布になっているかというと、「円安が進行しちゃってエラいこっちゃ!」なんて事態がいつ起こるのか分からないからです。予算を別にしておかないといざというときにお金を迅速に突っ込めないで困りますね。というわけで、この外為特会は為替介入の資金になります。
この外為特会は2018年03月30日時点で約144兆円あります。
日本はこの外為特会のお金を韓国との通貨スワップ協定のために用いたことがあるのです(後述)。
⇒参照:『Money1』「『国庫納付金』『外国為替資金特別会計』とは?」
https://money1.jp/?p=643
⇒参照:『財務省』「外国為替資金特別会計」「平成30年度予算」https://www.mof.go.jp/about_mof/mof_budget/special_account/gaitame/2017account.htm
⇒参照:『Money1』「『為替介入』とは?」
※念のために付記しますが「為替介入」と「為替操作」は違います。
通貨危機になったら……外貨が枯渇して倒産の可能生がある!
さて、自国の通貨が暴落などして「通貨危機」の状態になると、自分の通貨の価値がどんどん下がっていきます。通貨の価値を維持するためには、外貨を売って自国の通貨を買わなければなりません。そうするとさらに外貨が減ることになりますね。
保有する外貨が減ると、外国との取引の決済用の外貨も減って、これが完全に枯渇すれば万歳、デフォルト(倒産)です。国だって資金ショートのために倒産することがあるのです。
そうならないために「通貨スワップ協定」を結んで、外貨を補填(ほてん)する策を講じておくわけです。
通貨スワップ協定には主に、
①協定を結んだ2国間で直接「外貨」を融通し合う。
(相手にとって外貨:普通は自国通貨)
②「外債」を売却して、一定期間後にこれを買い戻す。
という2種類があります。
①の場合です。
日本とA国が通貨スワップ協定を結んでいたとしましょう。例えば、A国の通貨が大暴落して危機に陥ったとします。日本は通貨を融通してあげます。
普通は、自国通貨を相手に融通するので、日本とA国が通貨スワップ協定を結んでいる場合にA国が危なくなったら日本が融通するのは「円」です。
これはその協定の内容によるのですが、もしA国に「融通するのは米ドルにしてほしい」という要望があり、日本が了承した場合には「ドル-A国通貨」のスワップ協定もあり得ます。これは日本からしてもリスクの高い協定で、あまり結びたくないものです。
しかし、日本はかつて韓国と「米ドル・ウォン」の日韓通貨スワップ協定を締結したことがあります。2011年10月に行われた、「日本の財務省」と韓国の中央銀行「韓国銀行」の間で結ばれたもので、幸いなことにこれは時限措置で、2012年10月31日をもって終了しました。
②の場合です。
同様に、A国が危機に陥ったとします。A国が持っている外債を日本が買ってあげます。その代金がA国に入るので、A国はそれを利用して通貨危機を乗り切ります。そして、一定期間が過ぎたらA国は日本から外債を買い戻すのです。
自国通貨が脆弱な国はハードカレンシーが欲しい
日本の「円」はハードカレンシー(国際的な取引で決済に使用できる安定した通貨のこと)ですから、円の通貨危機なんてことはほとんど考えられません。つまり、日本が通貨スワップ協定を結ぶ意味は、実はあまりないといってもいいのです。
ですが、上記の例でいうと、A国が通貨危機に陥ったことが引き金になって世界中に金融危機が広がるなんてことが考えられます。世界中に金融危機を広げないため、いわば間接的に日本を守るために通貨スワップ協定を結ぶのです。
いわば、日本の世界的な信用(「円」の信用・保有する莫大な外貨準備高の信用)を背景に、A国の通貨を担保してあげるものと考えても良いでしょう。また、外貨(お互いにとっての外貨:普通は自国通貨)を融通し合うのですが、「その外貨が何か」が問題です。
「米ドル」なら最高で、ハードカレンシーなら良いのですが、それが例えばB国のマイナーな通貨みたいな場合、「そんなもの融通されてもなあ……」ということになります。
ですから、多くの発展途上国、自国通貨が脆弱な国が締結したいと思う「通貨スワップ協定」は、できればハードカレンシーを融通してくれるもの、なのです。
つまり、最高なのはアメリカ合衆国と通貨スワップ協定を結ぶことですが、合衆国からすると脆弱な通貨を持つ国と通貨スワップ協定を持つことには何の意味もありません。
日本にとって韓国との通貨スワップ協定は必要ない
さて、日韓の通貨スワップです。はっきり言えば、日本にとって韓国との通貨スワップ締結についてはメリットはほとんどありません。1万歩譲って、仮にメリットがあるとすれば、韓国の破綻によって起こるかもしれない経済危機に日本が巻き込まれないようにする、というディフェンシブな効果です。
これをメリットと認めるかどうかは「日本の国益になるか」という視点が必要となるでしょう。政治家の皆さんは、日本の国益になるかをきちんと考えて結論を出してほしいものです。
⇒参照:『Money1』「南朝鮮またぞろ『通貨スワップ』とか言い出す」
https://money1.jp/?p=10247
⇒参照:『Money1』「『世界を股に掛ける高利貸』IMFは合衆国のものである」
https://money1.jp/?p=10119
⇒参照:『Money1』「トランプ師匠も賞味期限切れか? 合衆国は中国共産党潰しに邁進する!」
https://money1.jp/?p=9205
追記
「外貨」の説明を追加しました。
日本の外貨準備高を2019年(令和元年)08月のものに更新しました。
リンクを追記しました。
2011年に日韓で締結された通貨スワップ協定について追記しました。
「外国為替資金特別会計」について追記しました。
財務省の外国為替資金特別会計の決算情報へのリンクを追記しました。
(高橋モータース@dcp)