アメリカ合衆国と中国の貿易戦争が「90日間の猶予期間」によって「休戦状態にある」などと報道されることがありますが、これは正確ではありません。
一見、合衆国は対中国貿易赤字を減らすべく貿易戦争を行っているように見えますが、その本質は貿易戦争ではなく、中国の不公正な貿易慣行(あるいは商習慣)を是正するための戦いであって、いわばイデオロギーの戦いともいえるものなのです。
ですから、合衆国の攻撃は中国が貿易慣行を変更するまで続きますし、休戦状態などはあり得ません。イデオロギーの戦いには妥協ポイントはないからです。事実、合衆国は中国に圧力をかけ続けています。そのトピックをご紹介します。
■ファーウェイCFOの逮捕
中国通信機器最大手『ファーウェイ(華為技術有限公司)』のCFO(Chief Financial Officerの略:最高財務責任者)がカナダの当局に逮捕されたという件が報道され、株式市場に影響を与えています。
逮捕された孟晩舟CFOはファーウェイ創業者である任正非CEO(Chief Exective Officerの略:最高経営責任者)の娘ですから、企業に与える影響も大きなものです。
逮捕の理由は、「イラン制裁決議への違反」といわれていますが詳細は明らかになっていません。また、アメリカ合衆国当局が孟晩舟CFOの身柄を引き渡すよう要請しているとのことで、カナダからアメリカ当局へ移送されるのは確実と見られます。
今回の逮捕が株式市場に大きな影響を与えている理由は、ファーウェイが中国最大手の通信機器メーカーであること、また企業のありようによります。
ファーウェイ創業者の任正非CEOは中国人民解放軍に身を置いた軍人出身で、そのためファーウェイは「実は人民解放軍の事実上の指揮下にある企業なのではないか?」とささやかれてきたのです。中国はアメリカをはじめ先進諸国にサイバーアタックを仕掛けている国として知られています。ファーウェイが製造・販売するネットワーク機器がその一助となっているとすれば看過できませんね。
中国はこの逮捕について猛反発し、孟晩舟CFOを解放するよう要求しています。これは孟晩舟CFOの口からファーウェイの最高機密が漏れることを恐れてのこととも考えられるのです。アメリカ当局、防諜組織は、ファーウェイの首脳部を探り、中国を追い詰めるための良い機会と捉えている可能性があります。
■「チベット相互入国法」成立へ!
合衆国の外交委員会で「チベット相互入国法」(Reciprocal Access to Tibet Act of 2018)が全会一致で承認されました。この法案(bill)では、
中国当局が「合衆国政府の高官や報道関係者などのチベット立ち入り」を拒否した場合、
中国当局者の合衆国入国を拒否する
と定めています。現在、中国政府は外国人によるチベットへの立ち入りを著しく制限していますが、「国内における自由な通行」を相互に認め合うべきだという建前で、中国がチベットに設けている壁を壊そうとしているわけです。
この法案は2018年09月25日、合衆国下院で満場一致で可決されました。上院でも可決され、トランプ大統領がサインすれば「法律」として機能するようになります。
トピックを2つ取り上げましたが、「猶予期間内は合衆国が中国に圧力を掛けない」「休戦状態である」という考えが間違っているのは明らかです。チベット相互入国法の進展でも見られるように、たとえ貿易戦争と呼ばれていても合衆国・中国のどつき合い、その根本にあるのはイデオロギーの戦いなのです。ですから、やはりこれは新冷戦と呼ぶべきなのです。
(柏ケミカル@dcp)