「下放」ってナニ?
あまりマスコミでは取り上げられませんが、中国の習近平国家主席が「下放」政策を進めようとしています。年配の皆さんは「下方って、また懐かしい言葉だな」と、若い世代の皆さんなら「ナニそれ?」と思われるでしょう。
これは、中国共産党の毛沢東が文化大革命のころに行った政策です。そもそも文化大革命の本質は権力闘争であり、毛沢東による邪魔者の粛正、権力再奪取がなされました。ただ建前上は、あくまでも「非共産主義的なものを排除する」という旗の下に、インテリ層や昔からの伝統文化、宗教施設などが徹底的に破壊されたのです。
青年層は「紅衛兵」を結成し、毛沢東の先兵となって暴走しましたが、やがて彼らは毛沢東自身にとっても邪魔になります。そこで、毛沢東は「きみたちは農村に行って、共産主義について学び直せ」という指示を出しました。
これが「下放」です。
もともとは都市で暮らしていた青年が農村の役に立つとも思えませんし、来られた農村の方も困ったでしょう。事実、これは体のいい厄介払いだったのです。暴走する若者を都市から地方へ移し、都市の混乱を収束する効果がありました。
その後の農村の混乱と疲弊についてはここでは記載しませんが、もしご興味のある方はぜひ調べてみてください。毛沢東が自分に権力を集中させるために行った文化大革命は、中国の国土にひどい災厄をもたらしたのです。
なぜ今「下放」を行うのか?
さて、今になって習国家主席が「下放」政策を行いたい理由は何でしょうか?
これから都市部で起こると予想される、「社会不安による民衆運動」の芽をあらかじめ摘んでおくことでだと推測できます。
05月31日、中国の国家統計局が発表したPMI(Purchasing Manager’s Indexの略:製造業購買担当者指数)は予想以上に悪い結果でした。製造業は確実に縮小し、景気は悪くなっています。この逆風の中、Money1でもお伝えしたとおり、共産党中央は地方行政府に対して、「大量失業者を出すな」と指示しています。
⇒参照:『Money1』「トランプ師匠による関税賦課は中国の外貨獲得能力を喪失させる」
https://money1.jp/?p=8331
景気が悪化し、都市部の職がなくなると確実に人が余ります。しかも大量に。失業者を出さないようにするには、余剰人口、つまり失職者を都市から追い払えばいいわけです。下放はその目的に合致しています。
しかし、最大のポイントは「革命は既存社会への怒りを持つ層から始まる」という点です。都市部で失職し、社会への怒りをためた人たちが多くなれば、これは社会不安を醸成し、その怒りが共産党ヘ向かう可能性があります。
傑作なことに、都市で起こる「虐げられた人たちの社会運動」が共産党を打ち倒すかもしれません。
ここにきて、にわかに習国家主席が「農村に学ぶべき」という「下放」政策を持ちだしたのは、明らかに自分の権力を維持するためです。もし、下放によって習国家主席の権力基盤が安定したとしたら、本当に毛沢東になれるかもしれませんね。
アメリカ合衆国との新冷戦によって経済が破綻しなければ、ですが。
(柏ケミカル@dcp)