政府の発行した国債を中央銀行が買い入れることは「国債をお金の代わりとすること」で、これを「財政ファイナンス」と呼び、先進各国では禁止されています。財政規律が緩んでロクなことにならないからです。日本でも財政法上禁止されています。しかし、日本は事実上の財政ファイナンスを行っているという指摘があり、実際非常にマズい状況です。今回はそのマズい件についてです。
日本銀行が国債の買いオペを行った「量的緩和」
日本の財政法の第五条には、
第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
とあります。国債を日本銀行に引き受けてもらったり、日本政府が日本銀行からお金を借りたりは法律上できません。
そこで、日本政府は赤字国債を発行し、民間銀行は入札によって国債を落札。民間銀行は落札した国債を機関投資家などに販売する、という仕組みになっています。ですから普通は日本銀行がこの政府のお金調達に関与することはありません。
しかし、日本経済が低迷を続ける中、日本銀行が国債を引き受ける(簡単にいえば買うわけです)ことが起こります。といっても、政府から日本銀行へと直接引き受けることは法律上できませんので、「民間銀行を通して」という形を取ります。
まず2001年-2006年、日本銀行は民間銀行から大量の国債を買い入れて、民間銀行にその対価を提供するというオペレーションを行いました。日本銀行が大量の国債を買うと、民間銀行に支払われる対価は、民間銀行が持っている日本銀行の当座預金に入ります。
つまり、この国債の買いオペは「マネタリーベースの拡大」を行うもので、「マネタリーベース」を大きくし、それによって「マネーサプライ」を拡大、これで景気を良くしようという目論んだわけです。
※「マネタリーベース」「マネーサプライ」については以前の記事「『マネタリーベース』と『マネーサプライ』 景気の善しあしに影響する!」を参照してください。
「マネタリーベースの拡大はマネーサプサプライの増加を促し、このマネーサプライの拡大は景気を向上させる」というメカニズムは働かせようとしたのです。これが「量的緩和」と呼ばれた2001年-2006年の日本銀行による金融施策の中身でした。
「異次元の金融緩和」で日本銀行が行った空前の「買いオペ」
上記の「量的緩和」は2006年3月に終了します。2008年9月にはリーマンショックによる世界的な金融危機が日本を襲います。さらに2011年には東日本大震災が起こりました。日本はデフレ状況から脱却できず、経済状態はおせじにも明るいといえない状況が続きます。
2012年末の総選挙によって自民党が政権を奪い返し、第二次安倍政権が発足します。安倍首相の肝いりで、2013年1月には内閣府・財務省・日本銀行が共同し、
・デフレからの脱却
・2パーセントの物価上昇の達成
(いわゆる「インフレターゲット」です)
を目標として取り組む旨の発表をします。これを前提に、新日本銀行総裁となった黒田東彦さんは「異次元の金融緩和」に乗り出します。これは、それまで世界が仰天するほどの「買い入れオペ」を行う「量的・質的金融緩和」だったのです。
国債だけではなく「ETF」「J-RETIT」などの債権も莫大な量を買い入れるオペです。その額は、2013年では年間に約50兆円、2014年には(追加緩和も含めて)約80兆円にも上りました。2015年末には、日本銀行の日本国債の保有残高は364兆円に達し、国債の保有主体としては、金融機関、保険関連会社などを抜いて1位となっています。
日本銀行はいわば民間会社みたいなものですから、このような債権の大量買いは非常にまずいのです。政府から独立を保ち、中央銀行として信頼性を保つためには、当然ながらその経営状態は健全でなければなりません。今や識者からは日本銀行の健全性・安定性について「?」が付く状態となっています(詳細は別記事でご紹介します)。
現在も日本政府の歳入・歳出バランスは赤字です。赤字国債を発行し続けています。日本経済が良くなるまで、と日本銀行の「国債買いオペ」は続いています。
政府から直接買い入れてわけではなく、また日本銀行の黒田総裁も「財政ファイナンスではない」と述べています。しかし、民間銀行を通しているものの、政府発行の国債を日本銀行が引き受けているのは同じです。事実上の「財政ファイナンス」といわれても仕方ないでしょう。
ですから、日本もよその国の「中央銀行の国債買いオペ」を笑っている場合ではないのです。「人の振り見て我が振り直せ」とはよく言ったもので、もって他山の石とし、うちの国がひどいことにならないよう手を考えないといけません。私たちが思っているほど、日本は大丈夫ではないのです。
(吉田ハンチング@dcp)