なぜ日本を引き合いに出すのかよく分かりませんが、韓国メディア『毎日経済』に興味深い記事が出ています。
韓国では賃金不払い・滞納が巨額に達する!
韓国での賃金不払い・滞納の規模が日本の16倍に達するという内容です。
ネタ元は、韓国の雇用労働部が2021年に出した「最低賃金違反事業場減少のための制度改善案」で、同紙記事では以下のように賃金不払い金額の推移を紹介しています。
韓国「賃金不払い金額」推移
2017年:1兆2,548億ウォン
2018年:1兆5,053億ウォン
2019年:1兆5,862億ウォン
2020年:1兆4,443億ウォン
2021年:1兆2,334億ウォン⇒参照・引用元:『毎日経済』
2019年の賃金不払い金額「1兆5,862億ウォン」は日本の16倍もの規模である――としています。
同紙では、賃金不払い金額の増加を、文政権下で行った最低賃金の急速な引き上げが原因ではないか――と指摘しています。
以下が韓国の2017~2022年の最低賃金の推移です。
確かに、最低賃金の急騰は「賃金不払い」に影響しているでしょう。
しかし、上掲のデータをよくご覧ください。
文在寅大統領が就任した2017年の段階で「賃金不払い」は「1兆2,548億ウォン」もあります。
そもそも「賃金不払い」金額の水準が高すぎるのです。
日韓のモラルの差ではありませんか?
『毎日経済』はそこまで踏み込んでいませんが、これは日韓の経営者のモラルの差(労使関係も含む)を示しているのではないでしょうか。
全員がそうではありませんが、日本の経営者にはどんなに業績が苦しくても「従業員の給与は守らなければ」と考える人が多いように思われます。経営者の姿勢、モラルの高さが「16倍」もの「不払い賃金」格差として表れているのではないでしょうか。
特に筆者が日本をひいき目に見ているわけではありません。
この記事の元になった「賃金滞納を解消するための労働監督制度の改善策」では、イ・ジョンス(韓国労働社会研究所客員研究委員)さんは、以下のように書いています。
韓国の賃金滞納問題は深刻だ。
滞納額の絶対規模で先進国と比較できないほど多く、「労働尊重」を標榜した文在寅政府でもあまり改善されなかった。
しかし、解決策がないわけではない。
賃金滞納が労働基準法など労働関係法違反で発生する問題であるため、基本的に労働監督の強化を通じて解決できる。
もちろん、事業主の経営悪化など経済的要因で賃金滞納が発生した場合には、勤労監督の強化にもかかわらず、賃金滞納の発生を避けにくいだろうが、純粋に経済的要因による賃金滞納の割合が思ったより高くなければ、勤労監督強化の効果は相当だろう。
ところが、雇用労働部が発表した賃金体制の原因に対する調査結果を見ると、経済的要因が81.5%に達する。
この調査結果だけを見ると、いくら労働監督を強化しても韓国で賃金滞納は解消されにくいようだ。
しかし、韓国企業データDBを分析した他の文書では賃金滞納の原因で非経済的要因を80.1%と提示している。
正確な処方が可能なように原因を知る必要があるが、現在、韓国は賃金滞納が深刻なのに、その原因に対する調査さえ十分ではない状況だ。
正確で客観的な調査結果を確認するできないが、日本の16~17倍に達する賃金滞納事件の大半が経済的要因と見るのは難しく、むしろほとんどの賃金滞納は、勤労監督強化による事前対処が可能な非経済的要因で発生すると考えた方が合理的であろう。
(後略)⇒参照・引用元:「賃金滞納を解消するための労働監督制度の改善策」イ・ジョンス┃韓国労働社会研究所客員研究委員
非常に冷静で的確な分析です。
まず、原因が経済的なもの、例えば業績が悪くて会社にお金がないなどであれば、それは解決するのが難しいです。
雇用労働部の調査によると「賃金不払いの原因の81.5%が経済的な要因」となっているのですが、これとは真逆の「非経済的要因が80.1%」という資料もあるのです。
ですから、正確な対処法を見つけるために「賃金不払いの原因を調べた基礎資料」を作るところから始めないといけないのです。
経営者に「なぜ給与を支払わないのですか?」というアンケートを取ったとしても「業績が悪いから」などと答えるに決まっていますから、非常に緻密な調査が必要になるでしょう。
その上で、イ研究員は「日本の16~17倍に達する賃金滞納事件の大半が経済的要因と見るのは難しく」と述べています。
つまり、巨額の賃金滞納が発生する原因は「非経済的な要因」にあると見ざるを得ないのです。
この「非経済的な要因」の中には、労使関係であるとか、「経営者のモラル」も含まれます。
「なぜ韓国で賃金不払い・滞納が大量に発生するのか?」は探究心をそそられる魅力的なテーマといえます。
最低賃金の上昇が増加に拍車を掛けたことは確かでしょうが、「そもそもなぜ多いのか」こそが根本の問いであるべきでしょう。
(吉田ハンチング@dcp)