中国を代表する経綸家とされていた李克強前首相が逝去されました。その死については議論が起こっていますが、去っていった人を呼び戻すことはできません。
中国のメディア、またSNSなどでは李克強さんを惜しむ声が上がっています。
例えば、以下は李克強さん直筆の「大学卒業時にクラスメートを激励するために書いたメッセージ」とされ、ネットに上がっています。
纯真而不欠闻达,善良而不失坚强,把生命高举于尘俗之上,又溶化于社会之中,这应该是我们这一代的共同追求。
李克強
李克強さんは、ある意味正直な人でした。
首相に就任したとき最初の記者会見で、「人民に良い生活をさせるためには、政府は窮屈な生活をしなければならない」と述べました。
「小さな政府」を企図していたとも取れる発言で、しかし中国は全く逆の方向へ進みました。何もかもを中国共産党が支配することになったのです。
また、オフレコでしたが、中国共産党の公表するGDPのデータなどアテにはならないと述べたのも李克強さんでした。李克強さんの示唆によって、中国経済を正しく測るためには他の指標がいると分かり、「李克強指数」が知られるようになったのです。
Money1でもご紹介しましたが、 2020年05月28日には「中国は発展途上国で人口が多く、1人当たりの年収は3万元だが、月収が1,000元しかない人が6億人いる。1,000元では中規模の都市でアパートを借りるのは難しいかもしれない。そして今、私たちは伝染病に遭遇しており、伝染病が流行した後は、人々の生活が重要になる」と述べました。
中国の皆さんからすれば、庶民の生活感を把握していると感じられたでしょう。この発言は習近平の「中国にもはや貧困はない」という宣言を真っ向から否定するものとなりました。
もし習近平の顔色だけを窺う人であったら、こんなことは言わなかったでしょう。
2022年03月、全人代後の首相記者会見で、李克強さんは税金の引き下げについて「肥料は根に注ぐべきで、根がしっかりしてこそ葉が繁る」と述べました。
どこかの国の「増税メガネ」と国民から税金を取ることばかりを考えている政府機関は、よく聞いておくべきでしょう。
同年08月、深圳を訪問した際には、連花山公園を特別訪問し、鄧小平の銅像に敬意を表し、花かごを供え「中国の開放は前進し続けなければならず、黄河と長江は逆流しない」と述べています。
そして2023年03月、首相退任となり、最後の報告では
「社会政策は人民の生活を基礎とすべきである。人民の願望を統治の方向とする。
人民を常に心の中で最高の位置に置くこと。
国民の利益を何よりも優先すること。
大衆の声に注意深く耳を傾けること。
国民の気持ちを理解すること。
空虚な話や尊大さに断固反対すること。
人民の利益を第一に考えること。
大胆さと責任感を奨励し、平凡さと怠惰には説明責任を果たすこと」
と語りました。この場面では、李克強さんが席に戻るまで拍手が続きました。
李克強さん自身がそれを実現してきたのか、できたのかはともかく、聴衆の胸に響いたのは確かなようです。
――李克強さんは突然逝ってしまいました。しかし、習近平個人崇拝に進む中国と、それによって統制される国民を見届けずに済んだともいえます。
心より、李克強さんのご冥福をお祈り申し上げます。
(吉田ハンチング@dcp)