『アジア経済』に興味深い記事が出ています。
韓国は日本の仕掛けた「円安のワナ」にハマってはいけない、という記事です。
書き手はキム・ジョンシク『延世大学』経済学部名誉教授です。
キム・ジョンシク名誉教授は韓国メディアによく登場される方で、Money1でも先生の発言をたびたび引かせていただいています。
「円安は日本のワナ」ではありません
キム名誉教授は以下のように述べています。
アメリカ合衆国が金利を大幅に高め、世界は資本流出を防ぎ、インフレを下げるために金利を一緒に高める同調政策を使用している。
しかし、日本はこれと逆に通貨量を増やす緩和的通貨政策を運用している。
日本がこのような脱動調和政策を使う背景には、円安を通じて輸出を増やし、長期間の景気低迷から抜け出す戦略がある。
実際の円の為替レートは最近1ドル当たり139円を超えており、合衆国が追加的に金利を高めれば年末まで140円台後半まで高くなるという見通しも出ている。
日本銀行の黒田春彦総裁もこれまでの緩和的通貨政策を今後も持続することを明らかにしている。
(後略)⇒参照・引用元:『アジア経済』「【論文】円安トラップから抜け出すには」
キム先生に逆らうようで申し訳ないのですが、『日本銀行』の黒田総裁が頑張っているのは、本来日本のデフレ傾向をなんとかするためです。金利を上げないのは、ここで流動性を絞るような真似をすると、ろくでもない結果になると分かっているからです。
実際、黒田総裁は「時間は掛かるかもしれないが、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を実現することは可能」とはっきり述べています。また「金利をちょこっと上げたらそれだけで円安が止まるとは到底考えられない」と金利を上げることを全否定しました。
キム名誉教授のおっしゃるような、輸出を増やして……というような件は、結果としてそうなるかもという話であって、第一義的な目標ではありません。
以下の記事でもご紹介しましたが、榊原英資先生が指摘されたとおり、日本(『日本銀行』)の行動指針は、あくまでも「景気回復途中にあるので、景気回復を確実にするため緩和を持続する必要がある」なのです。
そもそもこのドル独歩高の中で、ちょこちょこ金利を上げるような小細工が効くとは到底考えられません。
日本円の対ウォン安は韓国にとって都合が悪い!
日本円が全方位的に通貨安になっているのは、韓国にとっては都合が悪いのです。先にご紹介したとおり、ウォンが円に対して高くなっているときには韓国は危機のとば口だからです。
論より証拠。以下の円ウォンチャートをご覧ください(チャートは『Investing.com』より引用:月足)
韓国が経済危機に陥った1997年アジア通貨危機、2008~2009年韓国通貨危機の前には、ウォンは対円で通貨高となっています。
キム名誉教授もそれはよくご存知で、以下のように書いていらっしゃいます。
(前略)
韓国経済は、合衆国の金利引き上げと円安衝撃が同時に来ると脆弱だ。合衆国の金利引き上げは米韓通貨スワップで対応できるが、日本の円安による衝撃は為替レート政策がジレンマに陥り、解法が容易ではないからだ。
政策当局は、日本が作った円安のワナに陥らないように慎重な対応戦略を樹立し、韓国経済が危険にさらされないようにしなければならない。
⇒参照・引用元:『アジア経済』「【論文】円安トラップから抜け出すには」
傑作なのは、合衆国の金利引き上げは「米韓通貨スワップで対応できる」と書いていらっしゃいますが、それは先日空振ったのです。
ですので、対応できないことになりますし、自分で円安の衝撃については「解法が容易ではない」と書いておきながら「政府は慎重に対応戦略を樹立すべき」などと言っています。
どのような対応戦略を出すべきなのでしょうか。もし分かっているなら韓国金融通貨当局にアドバイスをしてあげるべきなのではないでしょうか。
「できないこと」は言わないようにしよう
さらに、キム名誉教授は「できないこと」を処方箋として指示していらっしゃいます。
以下に引用します。
(前略)
まず、輸出増大と国内物価安定を両立できる適正水準で為替レートを安定させる必要がある。輸出のためには為替レートを高めなければならないが、国内物価を安定させるためには為替レートを下げなければならない。
過度に高まっている為替不安心理を米韓通貨スワップで安定させながら、同時に輸出を考慮した適正為替レートを維持し、円安の被害を減らさなければならない。
(後略)⇒参照・引用元:『アジア経済』「【論文】円安トラップから抜け出すには」
「まず」じゃないでしょう。「輸出増大と国内物価安定を両立できる適正水準で為替レートを安定させる必要がある」なんて言っていますが、それができるならこんなことにはなっていません。
「過度に高まっている為替不安心理を米韓通貨スワップで安定させ」とご高説を垂れていますが、もう何度だっていいますが、空振ったのです。
できません。
ですから、それに続く「輸出を考慮した適正為替レートを維持」もできません。この方はできないことを「やれ」と言っています。
締結できる可能性のほとんどない「米韓通貨スワップ」が処方薬だと述べる神経は、いかなるものなのでしょうか。目の前の苦難を逃れる方法が他国頼み(他国が供給してくれるドル頼み)というのは、いかにも情けない話だとは思われませんか。
(吉田ハンチング@dcp)