Money1でたびたび著作から引用させていただいている松本厚治先生は、1968年に東京大学経済学部を卒業して通産省に入省、1982年には駐韓日本大使館に一等書記官として赴任。後に参事官として勤務、1985年に帰国という経歴をお持ちです。
そのため、韓国経済の構造、また韓国人のメンタリティー、韓国メディアの特性などを熟知していらっしゃいます。
松本先生には『日韓経済摩擦 韓国エコノミストとの論争』という、今読んでも非常に面白い著作があります。
この本は1986年に刊行されていますが、松本先生が大使館に勤務していた時代のことを扱っています。
当時は、韓国では対日赤字の拡大が問題視され、赤字を縮小させようと日本に非論理的な非難を浴びせていた時代でした。
松本先生は韓国からの論難に対して、論理的に「そうではない」「韓国の主張はおかしい」とスジを通す論文を複数の韓国メディアに対して発表しました。
同著は、「大使館時代に松本先生が韓国経済について書いた論文」、それに対して「韓国メディア・識者が行った反論」を併せて掲載しています。
本のタイトルになっている「論争」はこの「松本論文 vs 反論」のことです。
読者は「ボクシング試合の採点者」の立場になって、どちらがどのくらい有効打を放っているのかを評価できる――という本なのです。
松本先生が書いた論文に対する反論ですので、先に出す松本先生の方が不利ですが、それでも反論が松本論文に対する有効な打点を挙げていないのはさすがという他ありません。
松本先生の指摘に有効打を放てないのは、当時の日本に対する赤字解消の非難がいかに非論理的なものだったのかということです。
中でも、松本先生の指摘に対して出た『毎日経済新聞』の社説(1984年08月31日付)がものスゴイ内容です。松本先生の同著に掲載されているのを該当部分だけ以下に引用してみます。
「ところでこのような論理的な説明は、しかし彼ら日本人が語ってはいけない言葉である。
論理的であればあるほど、日本人が語ればわれわれの感情を傷つけやすい言葉である。
このような論理は強者が弱者をみくびる論理であるため、時には不必要で衝撃的な結果をもたらすことにもなるであろう。
二国間の深刻な貿易不均衡が現実に存在して、これに対する逆調国の国民的な不満が累積しているのに、黒字国がその罪をすべて逆調国になすりつけるように語ることは、二国間の善隣を阻害する破廉恥なことである」
⇒参照・引用元:『日韓経済摩擦 韓国エコノミストとの論争』著:松本厚治,東洋経済新報社,1986年(昭和61年)12月25日発行,pp176-177
※強調文字、赤アンダーラインは引用者による。
呆れる他ない言説です。
日本人は「韓国のおかしな主張」に対して論理的に反駁するな――と言っています。理由は「われわれが傷つくからだ」というのです。
自分たちの非論理的な主張を恥じるでもなく、引っ込めるでもなく「日本人が言うな」と非難しています。
このような国と一体なんの合意ができるでしょうか。論理的な話をするなというのですから。
古田博司先生が自らの経験を開陳された「『史料を見なさいよ』と言うと『韓国に対する愛情はないのかー』と激高する」と同根の態度ではないでしょうか。
松本先生の同著は1986年刊行で、もう36年も前のものですが、このような韓国人のメンタリティー、態度はいまだ解消されていないようにも見えます。
まったく度し難い話です。
(吉田ハンチング@dcp)