以前にもご紹介しましたが、「ドイツ銀行」がますます危険視されています。なぜドイツ銀行は世界中から注目されているのでしょうか? また何がそれほど危ないのでしょうか?
「ドイツ銀行」ってどんな銀行?
誤解している人がいらっしゃるかもしれませんが、ドイツ銀行は中央銀行ではありません。ドイツの中央銀行は「ドイツ連邦銀行」。ドイツ銀行は普通の民間銀行で、コメルツ銀行と並び、ドイツ最大の銀行として世界的に知られています。
創業は1870年にさかのぼり、第二次大戦中にはドイツが占領した各地の銀行を統合するなどでドイツ最大の銀行になりました。ドイツの敗戦によって、今度は分割されることになりますが、ドイツの産業界にはドイツ銀行からの融資・資金提供を受けた企業が非常に多く、現在に至るもドイツの有力企業を支える銀行として一目も、二目も置かれています。
例えば、フォルクスワーゲンが排出ガス規制で不正を行っていたと発覚し、世界的な非難を浴びた際には、100億ユーロを緊急融資することを発表しました。
歴史的にも規模的にもドイツになくてはならない銀行なのですが、一方でドイツ銀行には非常に暗い影の部分もあるのです。
「ドイツ銀行」の影の部分とは?
まず、ドイツ銀行の筆頭株主が中国の海航集団が筆頭株主であった点です(海航集団は海外資産を大量に売却しその際にドイツ銀行株式を手放したとされます)。ドイツ銀行から中国へと通常ならざる融資・資金提供が行われたのではないか、という疑義があります。このような疑念が持たれるのは、かつてドイツ銀行がマネーロンダリング(資金洗浄)に関わったことが確実視されているためです。
2017年には、ロシアの富裕層、中国の要人の資金洗浄に関わったとして調査を受けたことが報道されました。また、2018年には、あのパナマ文書の内容について当局の調査を受けています。このようにドイツ銀行は後ろ暗いお金についての関与が取りざたされる銀行となっているのです。
「ドイツ銀行」のお金に関する危ない点
ドイツ銀行が破綻し、それが世界的な金融危機を招くのではないかといわれるのは、以下のような危険な点があるからです。
1.デリバティブの総額が大きすぎる
2.基盤が非常に脆弱である
まず「1」ですが、ドイツ銀行の扱う総デリバティブ量は約50兆ドル(約5,500兆円)といわれています。デリバティブは日本語で金融派生商品と訳されますが、簡単にいえばいろんな理屈をつけて組成したリスク高めの金融商品です。
この約50兆ドルのデリバティブのうち、例えばロイターの報道(下記URLを参照)では「正味のエクスポージャーは200億ドル」としていますが、本当でしょうか? エクスポージャーは「市場の価格変動のリスクにさらされている資産の度合」という意味ですから、50兆ドルの全てが危ないわけじゃないよ、といっているわけですが、何かあったときに「200億ドル分」のリスクだけで済むはずがありません。
⇒引用元:日本語版『ロイター』「凋落のドイツ銀が市場に生む『疑心暗鬼』」
https://jp.reuters.com/article/europe-markets-deutsche-idJPKCN1J31V9
そして約50兆ドルものデリバティブを扱っていることは、そのまま「2」の銀行の基盤の脆弱性に直結します。
そもそも銀行についてはストレステストが課せられ、全資金の何パーセントが保全されているか(その国の中央銀行に預ける、いわゆる「預金準備」)などをクリアしないといけません。
ですから、クリアしているから今でもドイツ銀行は銀行を続けていられると思うでしょう。しかし、ドイツ銀行は本来なら2008年のリーマンショックのときにその屋台骨が大きく揺らぎ、倒れてしまってもおかしくない、もっといえば倒れるべき状況でした。
これをどのようにくぐり抜けたのかといいますと、「CoCo債」を使ったのです。Money1でかつて紹介したことがありますが、CoCo債というのは、ある条件が発動するとそれを「株式」に変えることができる(強制的に変えられる)という債券です。
⇒参照:『Money1』「CoCo債」とは?
https://money1.jp/?p=6806
発行元の金融機関の自己資本比率がある水準を下回ったら強制的に株式に変わる、というわけで、つまり債務を株式という資産に変換可能で、これによって資本増強ができた、と銀行の脆弱性を見かけ上取り繕うことができるわけです。
しかし、このような、いってみれば「インチキな手法」がばれないわけはありません。2年前ほどにインチキな手管が外にばれだし、以下のようにドイツ銀行の株は急激に下落しました(チャートは『Yahoo!Finance』より引用)。この下落は現在まで続いており、ドイツ銀行の株式の格付けは「ジャンク」となってるのです。
さらにEUはリーマンショックの際に、EU加盟国の銀行に、大暴落した株式・債券などを時価ではなく、原価で評価することを許してしまいました。時価評価の放棄です。世界的金融危機の中、銀行を生き残らせるために行った措置だったでしょうが、これも明らかなインチキです。しかし、そのおかげでドイツ銀行もまるで黒字のように取り繕うことができたのです。
早急に手を打つ必要がある!
ドイツ銀行の筆頭株主が中国の企業であったなど、中国への傾斜を強め、最近のアメリカ合衆国による対中攻勢に追随できないドイツですが、ドイツ銀行については早急に手を打つことが望まれます。
どこかの銀行と合併、あるいはどこかの銀行から救済話があるといいのですが、ドイツ国内のコメルツ銀行との合併話は流れましたし、世界各国の有力行も「火中の栗は拾いたくない」ので誰も手を上げないのが現状です。また、メルケル首相はリーマンショックの際に「税金によって民間企業の救済は行うべきではない」と他国を非難しましたから、ドイツ政府は救済を行えません。
そのため、このところドイツ銀行は「デレバレッジ」に勤しんでいます。規模を縮小すべく、資産の切り売り、部門の売却などを行っているのです。
果たして間に合うでしょうか?
※ドイツ銀行問題追記
⇒2019年07月09日追記:『Money1』「『ドイツ銀行』大リストラ断交へ! 今年・来年は『無配当』確定!」
https://money1.jp/?p=9221
⇒2019年07月05日追記:『Money1』「『ドイツ銀行、バッドバンクを用意』と報道!」
⇒2019年07月03日追記:『Money1』「ドイツ銀行、ストレステストをクリア! でも『大丈夫』じゃない!」
https://money1.jp/?p=9181
(柏ケミカル@dcp)