ドルウォンのレートがかつての通貨危機時の水準まで上がっているため、韓国は大丈夫なのかという危機感が表出されています。
危機感の表出は、上掲のとおり韓国の外貨準備高が減少しているためでもあります。
韓国の外貨準備高は2022年06月時点で「4,383億ドル」。4カ月連続で減少しています。
4,000億ドル超あるので、通貨危機など無縁にも見えるのですが、2020年03月にはドル不足でドボン寸前となり、『FRB』(Federal Reserve Boardの略:連邦準備制度理事会)が締結してくれたドル流動性スワップ(韓国側呼称は「通貨スワップ」)で助かりました。
ドル流動性スワップを締結した直後、2020年04月02日※、
満期8日:8億ドル
を利用しました。
いかにドル不足に陥っていたかの証明です。
※正確にはこれは契約日。『韓国銀行』から連銀への申請日は03月31日。
『韓国銀行』の発表によれば、このとき外貨準備高は4,000億ドルあったのです。
もし本当に4,000億ドルあったのなら、なぜドル流動性スワップを利用しなければならなかったのでしょうか。
理由は一つしか考えられません。
すぐに使えるドルが枯渇していたからです。
先にご紹介したことがありますが、『IMF』(International Monetary Fundの略:国際通貨基金)は、外貨準備を「通貨当局の管理下にある流動性の高い外貨資産」と定義しています。
『IMF』による外貨準備の定義
Reserve assets are those ①external assets that are ② readily available to and ③ controlled by monetary authorities for ④ meeting balance of payments financing needs, for ⑤ intervention in exchange markets to affect the currency exchange rate, and for ⑥ other related purpose (such as maintaining confidence in the currency and the economy)
準備資産とは、①対外資産で、②金融当局がいつでも使用可能な、③金融当局がコントロールできるものです。
④国際収支の資金需要に応えるため、⑤為替相場に影響を与えるべく為替市場への介入のため、⑥その他関連する目的(通貨や経済への信頼性の維持など)のためにあります。
出典:『韓国銀行』の外貨準備についての説明スライド
2020年03月の例をとってみても、韓国が積み上げた公表している外貨準備高は、即応性が低い、流動性が低いのではないかと考えられるのです。
『韓国銀行』の公表している外貨準備高のうち、緊急時に実際に使えるのはいくらあるのか、すなわち「いわゆる真水」の金額がいくらなのか――が問題なのです。
韓国の外貨準備高でスグに使える金額はいくらあるのか?
「韓国の外貨準備において真水はいくらあるのか」は常に注目の的です。
なぜなら、1997年のアジア通貨危機時に、『韓国銀行』が公表していた外貨準備高は幻であった(使える金額は実はあまりなかった)という、まるで冗談のようなことが起こったからです(以下記事参照)。
現在の韓国が経済的な危機に陥るでのはないかという懸念があるためでしょう、韓国メディア『ソウル経済』に、まさにこの点を指摘した記事が出ました。
記事から一部を引用してみます。
(前略)
外国為替保有額(外貨準備高)がいくら多いといっても、急迫した状況で利用できない外貨資産であれば何の役にも立たない。「利用できない資産」というのは、帳簿上にのみ存在するだけで動員できない外貨資産だ。
そんな資産があるかと思うが、実際にあった。
1997年に国際通貨基金(IMF)危機が発生した当時、韓国の公式外国為替保有額は204億1,000万ドルだったが、利用可能な外国為替保有額は88億7,000万ドルに過ぎなかった。
(後略)
ここでご注目いただきたいのは、金額です。この記事では、外貨準備高「204億ドル」としていたのに、利用可能な金額は「88億7,000万ドル」しかなかったとしています。
これが1997年のどの時点での数字を言っているのかは分かりませんが、先にご紹介したように、池東旭先生の著作によれば11月時点で、「公称の外貨準備高244億ドル、使用可能なドルは72億ドルまで急減した」となっています。
いずれにせよ、使用可能なドルが急減したため、同年11月17日には『韓国銀行』は通貨防衛を放棄せざるを得なくなります。
21日にはバンザイして『IMF』に緊急支援を要請しました。
なぜ、こんなことが起こるのかというと、外貨準備高の公表とは、資産の部の公表に過ぎないからです。
貸借対照表でいえば、外貨準備高というのは左側の「資産の部」しか見ていません。また、中身について、具体的に「どんな資産なのか」は公表されていません。
アラン・グリーンスパン議長(当時)が回顧録に「韓国政府はこの外貨準備を流用していた。保有するドルの大半を国内の銀行に売るか貸し出していて、銀行はこの資金を不良債権を支えるために使っていたのだ」と書いていらっしゃるとおり、例えば上掲のような状態だったわけです。
真水の部分がほとんどなかった――というのが韓国の外貨準備高の実態だったのです。
2008年~2009年の「韓国通貨危機」の際にも、公称外貨準備高は「2,000億ドル」超だったのに、ドル不足に陥って、
日本:200億ドル
の中央銀行間の通貨スワップを緊急で締結してもらい、ひと息つきました。まったくもって愚かしい話ですが、この時もスグに使える外貨資産がなかった、と見ざるを得ません。
外貨準備高を8,000億ドルにせよ!と無理難題
『ソウル経済』の記事は、これら2度の危機、そして現在の状態を鑑みて、以下のように提言しています。
(前略)第一に、名目GDP比の外国為替保有額(外貨準備高)の規模を絶対に増やさなければならない。
現在の24%から今後20年間で40%台に上昇させ、8,000億ドル以上になるようにしなければならない。
第二に、緊急動員が可能な預金の割合を大幅に上げなければならない。
現在5%水準だが、少なくとも30%、金額では2,000億ドル以上に上げなければならない。このためには、徐々に資産構成を有価証券中心から流動性中心に移す必要がある。
第三に、政府債権の割合はより高くなければならない。現在の60%から70%までに拡大しなければならない。
特にリスクの大きい資産の比重は大幅に減らさなければならず、株式と社債の場合には、特別で例外的な場合でなければ外貨準備を構成する適格資産にならないようにしなければならない。
そして、ドル建て資産の比重を70%水準から90%以上に変え、約25%の民間機関委託運用を中断しなければならない。
外貨準備高を「8,000億ドル」にしてそのうち20%の2,000億ドルを現金たるDeposits(預金)で持て、といっています。
上掲のとおり、直近2022年06月時点で「4,383億ドル」ですから、これは1.8倍、ざっくり2倍にしろといっているのです。
Deposits(預金)についてはもっと過酷な要求で、直近2022年06月時点で「192億ドル」です。「2,000億ドル」というと約10倍です。
「これから25年で」と付いていますが、可能かどうかは疑問です。
もっと簡単な方法があります。もし本当に4,000億ドル超の外貨準備があるのなら、そのほとんどを現金と合衆国公債にしてみたらどうでしょうか。
合衆国公債は、どの国がいくら持っているかは合衆国財務省が毎月公開しているので、韓国のいうSecurities(証券類)の保有額と齟齬がないかすぐに分かります。合っていれば韓国の信用度も上がるでしょう。
韓国の外貨準備高が『IMF』の推奨する保有額を割ったから信用が落ちたのだ、という方もいらっしゃいますが、ことの本質は、上掲のとおり「緊急時に使える外貨資産なのか」です。真水がいくらあるのかが分からないので、『韓国銀行』の公表する外貨準備高はいつまでも疑問の目で見られるのです。
アジア通貨危機の際にウソを付いていたのがばれたので、自業自得ではありますが。
(柏ケミカル@dcp)